【書評】モテと非モテの境界線
AV監督の二村ヒトシさんと、女のプロの異名を持つ川崎貴子さんの人気対談が書籍化されたモテと非モテの境界線。講談社さまよりご恵投いただきました。
タイトル通りモテと非モテの境界線はどこにあるのか?を探っていくわけですが、まあ読み進めるほど痛みを伴います。あるいは軽い絶望感とも言うのでしょうか。ただ幸せになりたいだけなのに、そこにあるのは無理解の断絶です。
それでも本書はモテと非モテの境界を見定めたいと願うひとの処方箋にほかなりません。男性にとっても女性にとっても得るものは多い本書ですが、ここからは男性の視点で中身を見ていきます。
結婚で人生が変わるのは男
冒頭であるデータが提示されます。「あなたはどれくらい幸福ですか?」という質問に対して、「あまり幸福でない」あるいは「まったく幸福でない」と回答した男女の数字です。
<男性>
既婚者:6.5%
未婚者:43.5%
<女性>
既婚者:5.3%
未婚者:8.1%
この結果に対し、自分の苦しみへの自覚が要因として挙げられます。女性の方がきめ細やかに自身の感情をケアしており、男性の方がやや無自覚であるという傾向です。
そして婚活に対する行動にもその傾向を見て取ります。多くの婚活事業を営む経営者が口にする言葉ですが、いま婚活パーティーやイベントに男性が集まりません。
結婚したいという目標を持つ女性は往々にして活動的で、よくも悪くも結婚できない課題を自身の中に見て取ります。一方で男性は「いつか良い縁があれば」というスタンスで積極的には動きません。
結果、よいパートナーが見つからない原因を深掘りせず、女性側の「普通の男性がいない」というキラーワードにつながります。
言うてオレがモテないわけじゃない
ところで、本書のタイトルは昨年末に行われた「モテと非モテの境界線」というトークイベントが元になっています。
具体的にモテる方法について踏み込んだ議論が交わされましたが、イベントタイトルはモテる方法ではなく、モテと非モテの違いに焦点が当てられています。その理由はまさに先に述べたものです。
モテる方法を主語に置いた場合、参加される方は必然的に「モテない自覚のある方」になります。一方でモテと非モテの違いを主語に置いた場合、参加される方は「知識としてモテと非モテの違いを知りたい方」になります。
何をくだらないことを……と思われるかもしれませんが、こうして視点を第三者に置かなければ、多くの男性にとって私ごとのイベントと捉えることができません。それは弱さでありプライドであるとも言えます。
仕事と恋愛だけでは人生を逃げきれない
本書では仕事に全力を尽くせば後から幸せは付いてくると考える多くの男性についても触れられています。幸せが一面的であればひとつの真理ですが、現代の幸せはどうにも多面的に構成されています。
それは別の視点で見れば仕事に逃げていることにほかならず、共に働き、共に関係を育みたい女性からすればコミュニケーションの取れない相手の最右翼です。
一方、恋愛や結婚に依存する女性に対しても触れられており、男女ともに仕事や恋愛だけにエネルギーを注がず、愛情の持てるコンテンツを持って依存の分散化を図る重要性が説かれています。
鍵は自己肯定感の確立にあり、アンコントローラブルな仕事や恋愛を拠り所にする危険性の話には説得力があります。そして「自分の幸せとはどういうかたちなのか?」と考える重要性も同様に説かれています。
彼の目に映る女性・映らない女性
本書では真剣に婚活に望む4人の男性が登場します。
- モテる美女を落としたいAさん
- メンヘラほいほいなBさん
- 美人との結婚を夢見る童貞Cさん
- 潔癖症のDさん
それぞれにリアルな話が展開されるので、まさに男女の断絶を感じずにはいられない箇所です。本書の核でもあります。
やさしいAさんには美人しか映らないし、凡才をコンプレックスに持つBさんはエキセントリックな女性しか目に入らない。一方でそれぞれの男性は自覚的か無自覚的かは別に女性に傷ついています。
その傷がコミュニケーションの起点を自分に置くことに転化しており、距離感を適切に図ろうとする女性とのミスマッチにつながっています。これはなかなかに厄介です。
誠実さってなに?
本書ではその問題に一つの解を提示します。それが相手に対する正しい誠実さを身につけることです。
触れ合う多くの人に(性的な意味でなく)興味を持つこと。自分よがりの誠実さではなく相手に対して誠実な人になること。「僕は誠実な男です」と述べるのではなく、対話を通じて相手を理解し寄り添って変わること。
誠実さ=相手のために変わることと明確に定義しています。そうして変われる男性のしなやかさが、女性から見た魅力であり、結果として後からモテが付いてくると。
だからこそ終盤で二村さんが述べる言葉は多くの男性の胸を刺すのではないでしょうか。
「いい女から優しくされるのが、男の人生のあがりって刷り込みがあるよね」
(中略)
「俺に優しくしてくれない女たちは悪である」
(中略)
「やっぱり女性からは優しくされたいんだよね。それって男性の究極の夢で、俺たち男はそのために生まれてきたんじゃないかと僕も時々思うんです」
そして、川崎さんが述べる「自分のお母さんに比べたら、すべての女性はやさしくないですからね」の言葉で鮮やかに現実に引き戻されます。
これをメタに見て「モテない男ってやつぁそうですよねw」なんて笑って明日を過ごすことのないよう、せめて本書の語る誠実さを身に付ける努力を重ねたいものですね。吐血。
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川崎さん、二村さんが池袋の三省堂でトークイベント&サイン会します。
二村ヒトシさん×川崎貴子さん | 三省堂書店池袋本店特設サイト
川崎さんが魔女に扮して、恋に悩むお嬢さまにトークイベントもします。