ヒモザイル第二話における大人の女性が好む「抜け感」のある服についての具体的な考察
東村アキコさんのヒモザイル、各所で話題になってますね。
第ニ話はアシスタントである哲郎さんの服装へのダメ出しを中心に、大人の女性にウケるヒモへの一歩を踏み出す回です。ここで東村さんは次のような言葉をかけています。
いいか!お前は背も高いし顔もちょっとだけ佐々木蔵之介に似てるし 白シャツチノパン来てスッと立ってたらそこそこいい男に見えるんだから!!
これには*1ファオタでなくともファッションをかじったことのある人なら、「おいちょっと待ってくれ」と声を上げずにはいられないフレーズではないでしょうか。そうです。白シャツとチノパンをただ着るだけでは抜け感は演出されないのです。
もちろんそこは百戦錬磨の東村さん、「白シャツとはカッターシャツのことですか?」と尋ねる哲郎に次のように答えます。
分かった じゃこう 紙に書いて哲郎んちの玄関に貼らせよう
「出かける前にボタン2個開けて袖2回まくってすそはインしない」って
昨今のメンズファッションにおいて袖口をまくって、あるいはパンツの裾丈をロールアップして軽さを演出するのは定番の手法です。しかし、そうしたコーディネートに適したシャツでなくては、この演出にも明らかな差が出ると言わざるを得ません。その違いを具体的に見ていきましょう。
佐々木蔵之介のシャツ&カーデ
http://www.moudouken.net/message/sasaki_kuranosuke.php
とても「抜け感」を感じる爽やかなコーディネートですね。次に、*2ユニクロの定番であるエクストラファインコットンブロードシャツを着用したコーディネートを見てみましょう。
ユニクロのシャツ&セーター
http://www.uniqlo.com/jp/stylingbook/pc/style/6687
パンツの色こそ違えどよく似たコーディネートではないでしょうか。しかし、どことなく先ほどの「抜け感」を感じないようには思いませんか?パンツの素材の差とも思えません。
実はここにこそ「シンプルなシャツとパンツで良いのに」という言葉の罠があります。冒頭の東村アキコさんを始めいわゆる大人の女性がイメージする抜け感のある服とは、ただなんとなく無地のシャツとパンツを合わせて得られるものではありません。
ここで「抜け感」の代名詞ともいえる加瀬亮さんにご登場いただきましょう。大人の女性が好きそうですね。
加瀬亮のシャツ&セーター
http://news.livedoor.com/article/detail/7584629/
抜けてる!抜けてるよ加瀬亮!!すごく抜け感がありますね。続いて同じようなユニクロのコーディネートも見てみましょう。
ユニクロのシャツ&セーター
http://www.uniqlo.com/jp/stylingbook/pc/style/6689
上下の色を逆にしただけで組み合わせは同じ白シャツにVネックのセーターです。さわやかな印象は受けますが、どことなく抜け感からは遠いように思います。その違いはどこにあるのでしょうか?
答えは「襟」「身幅」「着丈」「袖口」の4点です。
襟の違い
ユニクロのモデルが着るシャツと、佐々木蔵之介・加瀬亮の二人(以下両者)が着るシャツの違い。その一つが襟です。両者ともに縦にコンパクトな襟に対し、ユニクロのシャツは少し横に広がっています。
ユニクロの服は万人が日常のさまざまなシーンで着ることを想定しています。特にメンズラインはビジネスカジュアルを意識しているため、ネクタイを巻いてもノータイでもジャケットを着てカチッとハマることに重点を置いています。
そのため襟にはどうしても固さが出てしまい、それが抜け感の不足につながっています。
身幅の違い
ユニクロと両者のシャツのお腹周りに注目してください。
ユニクロのモデルはどことなく脇腹の布が余って収まらない印象を受けないでしょうか?他方で、両者の写真を見ると身体に沿ってタイトに絞られていることが分かります。これもまた抜け感につながる大きな違いです。
モデルの体型が異なるのではなく、シャツやセーターが身体のラインをより美しく表現しているのです。
着丈の違い
ぱっと見で分かりやすい違いといえば、この着丈の違いではないでしょうか。加瀬亮のコーディネートと、その下のユニクロのコーディネートを見比べてください。セーターの下に余っているシャツの長さの違いに気づくはずです。
シャツの着丈はそれを着用するシーンを大きく分けるほどに重要です。やはりユニクロはオールシーンを想定しているため、ビジネスカジュアルにおけるタックイン・タックアウト(パンツの裾に入れるか入れないか)の両方に対応できる着丈を取っています。
ある撮影シーンにおいてズームレンズが特化した単焦点レンズの性能には敵わないように、万能さは時に個性を失わせます。今回の例で挙げるならシャツをパンツの裾に入れるとお腹周りが少しダボ付き、裾から出すと長すぎるという状態ですね。
加瀬亮さんが着ているシャツは特にタックアウトにおいて美しいラインを描き、例えば恋愛マンガの主人公に多い細身のパンツにシャツを羽織ってちらっとベルトが見えるようなコーディネートにもぴったり合うものでしょう。
袖口の違い
最後が袖口の違いです。ユニクロと両者の袖口に注目してください。ユニクロのシャツがセーターからはみ出しているのに対し、両者の袖はシャツがセーターにぴったりと収まっています。
ユニクロのコーディネート集を見ていただけると顕著な傾向ですが、ユニクロ側はあえてシャツの袖を出しています。これには2つの理由があります。
・シャツ本体の袖口が広い
・セーターの袖口が狭い
ユニクロのセーターはビジネスカジュアルを念頭に置いているため、袖口がとてもタイトに作られています。これは腕時計の盤面が見えるように、あるいはキーボードを打つ邪魔にならないようにといった配慮があるのでしょう。
しかし、コーディネートにおいて両者は矛盾する要素です。単純に袖口が広いシャツに狭いセーターを重ねるので、少しごわついた袖の印象を作ってしまいます。そこで、あえてシャツの袖をセーターから出してちらっとまくることで、昨今のトレンドにスタイリングから落とし込んでいる。そんな印象を受けます。
まとめ
つらつらと語ってまいりましたがいかがでしょうか。プライベートなシーンにおいて大人の女性が好むであろう抜け感を持ったシャツの要素をまとめると、以下の4点に集約されます。
・コンパクトな襟(上のボタンを開ける)
・身体に合った身幅
・ベルトのラインから少し出る着丈
・タイトな袖口(を緩く捲くる)
これらをもって改めてヒモザイル第二話を見ていただけますと、東村アキコさんが綴る「抜け感男子」のシャツが上記の要素に集約されていることが分かると思います。
例えば、メンズビジネスファッションにおいて人気のある鎌倉シャツ。これはビジネスシーンにおける美しいシルエットに最適化されています。「抜け感」ではなく「きちんと感」ですね。当然、タックインが美しく収まるように着丈は長く取られています。
このようにシーンにあったシャツのシルエットに目を配ることが「抜け感男子」への一歩かもしれません。
最後に「ぐだぐたぬかしてユニクロで買えないならどこでそんなシャツ買えるねん」という言葉に帰着してはここまで読んでいただいた皆さまの時間を無駄にしてしまいますので、個人的に思う30代男性向けの抜け感のあるシャツを買えるブランドをピックアップして筆を置きたいと思います。
・MUJI Labo(約8,000円)
普通の無印ではなくMUJI Laboです。ムジラボです。重要なことなので2回言いました。お洒落という指向とは少し異なりますが日常着として美しいラインです。
・MHL(約15,000円〜20,000円)
後述するマーガレットハウエルのセカンドラインです。普段の生活で使えるカジュアルさと大人の男性が着るに耐えうるプレーンさを両立させた服が並びます。
・YAECA(約20,000円)
YAECAの代名詞ともいえるスナップボタンで作られたシャツは、服ではなくそれを着る人自体を美しく見せようとデザインされています。通販では軒並み売切れですね。
・マーガレットハウエル(約25,000円〜35,000円)
装飾を廃して着る人を引き立てる美しいカッティングと着心地の良さ。どことなく懐かしく品のある素材、身体に沿った機能性と、特にシャツのクオリティで知られるブランドです。
抜け感という要素においてはパンツと靴も外せないところですが、気付けば4,000字近い原稿になっていたので*3需要があればまた次回。
以下は巷で評判のよい2冊ですが、いずれも出来上がりのコーディネート像がはっきりしています。自身の目指す方向性と合っているかが肝要です。
できれば服にお金と時間を使いたくないひとのための一生使える服選びの法則
- 作者: 大山旬
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/06/29
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る