あの頃の情景を呼び起こす「きのこ帝国」というおそろしいバンド
多かれ少なかれ文章を書く人であれば、あの人には敵わないと敬愛してやまないエッセイストやコラムニストがいるのではないでしょうか。
彼・彼女らのなにが素晴らしいと言えばその視点。技巧的にすぐれた文章は数あれどその人にしか持ち得ない視点があります。
ごく私的なエピソードから気付いたら社会一般に対する問題提起へ。ミクロからマクロへと切り替わるその見立てに、ああやられたと一人膝を打ちます。
それはきっとミュージシャンにも同じように言えるでしょう。
半径5mを歌っていたバンドが遠く向こう側へと言葉をおくるようになったとき。「メジャーデビューして変わってしまった」というフレーズは過去幾度と交わされてきました。
ポピュラリティを獲得することが、ある種のマイノリティにさよならを告げることだとして。それでも続きを見たくなるのは何よりその視点に惹かれたからに他ならず。
閑話休題。
きのこ帝国について。
この男女混成4人バンドもまたつい先日メジャー1stアルバムを発表したバンドです。
邦楽ロックのインディーズ界ではすでに相当な熱量をもって迎え入れられていたバンドで、かつて多くの先駆者がそうであったように「変わった」と言われるバンドです。
何がそんなに変わったのか。一言で言うとシューゲイザーからオーソドックスなロック・ポップスへと変化しました。
シューゲイザーとは歪んだギターサウンドと浮遊感のあるメロディライン。そこに俯くように佇んでは囁くボーカルが特徴です。日本だとフィッシュマンズがその第一人者でしょうか。
こんな感じに歌っていたバンドがですね、どう変わったかというとスピッツ的な方向へ行ったと言えばよいでしょうか。
僕はどっちも好きなのでまったく問題ないのですが、ナイトクルージンな曲を聞き続けたかった人には少しポップに寄ってるけらいはあります。
ところでスピッツのハチミツをはじめて聞いたときの、あの懐かしさと新しさが同居してはやわらかい棘をもって胸に迫る感覚。多分そうそうないんじゃないかと思います。
でも、あったんです。それがきのこ帝国であり「東京」です。
日々あなたの帰りを待つ
ただそれだけでいいと思えた
赤から青に変わる頃に
あなたに出逢えた
この街の名は、東京(東京/きのこ帝国)
ふとラジオで流れてきたこのメロディライン。すうっと流れるように抜けては心に残る感覚。東京が含まれたアルバム「フェイクワンダーランド」はまるで10代のときに聞いた「愛のことば(スピッツ)」のようでした。
東京といえばメジャーアーティストならいつかは避けて通れないテーマ。それをこんなにも瑞々しく扱っては、多くの人がこの街に抱く感情をフィルムのように切り取って歌う。そこから、きのこ帝国の楽曲を遡ってたどりました。
- アーティスト: きのこ帝国
- 出版社/メーカー: DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT
- 発売日: 2012/05/09
- メディア: CD
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シューゲイザーやオルタナと言ったジャンル性も感じるものの、もう瑞々しさが半端ないのです。曲のタイトルからしてその一端が感じられます。で、満を持してメジャーデビューした楽曲がこちらです。
桜が咲く前に
ここを出てゆくことにしたよ
10年後のきみは
どこで誰と笑っているのだろうか(桜が咲く前に/きのこ帝国)
やっぱりそうだと。このバンドはシューゲイザーか否かではなく、純粋に良い曲を歌いたいんだと。轟音を鳴らすか否かではなく、誠実さを音と詩に込めたいんだと。その感覚はアルバム楽曲が発表されて確信に変わりました。
怪獣の腕のなか
凍えるこころを暖めさせて
もう、傷つけるための刃など
あなたには必要ないんだよ(怪獣の腕のなか/きのこ帝国)
歌の世界観が明らかに半径5mを超えて、遠くはなれた誰かの心へ届けるものへと変わっています。
シューゲイザーの語源でもある俯いて足下を見ながら歌うきのこ帝国もとても魅力的です。それでもこれだけのポップネスを勝ち得るバンドなら、届く音を選ぶのは決して間違いではないと。
それは誰もが持つ”あの頃”の情景を呼び起こす才能であり、バンドが持つ視点こそが僕が惹かれた理由にほかならないからです。
怪獣の腕のなか
笑っちゃうくらいに抱きしめるから
誰かを拒むための鎧など
重たいだけだから捨てましょう(怪獣の腕のなか/きのこ帝国)
*で、明日きのこ帝国+ゲストでくるりを迎えるライブがあってですね。これはダブル東京!?的なこう10代的なわくわく感を何かに書き起こそうとブログにしたためた次第です。特にオチもないんですが気になった方は聞いてみてください。